旅という言葉には魔力があると思いませんか
いつも思うんですが、砧公園近くにお住まいの方はご自宅に庭が不要なのでは。
あれだけ気持ちのいい広大な庭園を毎日ひとりじめ、とはゆかないまでもわが庭とすることができるんですから。
うらやましいかぎり。
その砧公園敷地内にある世田谷美術館で「十二の旅」と銘うたれた展覧会をやっているというので行ってまいりました。
「旅」をテーマに12人のイギリス人作家の作品を集めた、という趣向をこらした、というか変わった企画でして。
そのためか、「フェルメール」のように長蛇の列も、人さまの足を踏んづけてしまうようなこともなく、わが足音だけが天井にこだまするような、それこそ作品をひとりじめできる環境でぜいたくな時間を過ごしてまいりました。
うーん、こうでなくっちゃ(仏像も、建築も、絵も、ひとり静かに見るに限る!)。
もっともターナー(J.Tuner 1775年生まれ)見たさで行ったのですが、この人の展示作品はほとんどがエッチング。
あのターナーの油彩の空・雲・海をじっくり味わいたかったのにー。
でも、収穫もたくさんありました。
まず、チャールズ・ワーグマン(Charles Wirgman 1932年生まれ)という人が描いた幕末の日本。
「イラストレイティッド・ロンドン・ニューズ」特派員として来日した人で、もともと画家ではなかったようですが、茶屋や人夫が見える街道筋や宿場町を油絵でものにしている。
絵具を豊富に持ってきたんでしょーな、色彩も鮮やか。
で、この人、洋画がまだ目新しかった当時の美術生に油彩技術を教えていて、例の「新巻鮭」を描いた高橋由一もその影響を受けたひとりだったとか。
たしかに、高橋由一の「鮭」に通ずるこってりとした筆遣い。
ほかに、コンスターブル(John Constable)、デヴィッド・ホックニー(David Hocney)、彫刻の世界からヘンリー・ムーア(Henry Moore)、陶芸界からバーナード・リーチ(Bernard Leach)などの作家が紹介されている。
現代美術に属するボイル・ファミリー(Boyle)という4人家族(父・母・息子・娘)の作品には笑えた。
なんでも、世界地図を広げてダーツを投げるんだそうである。
地図上のある1点が決まると、その場所まで家族で行って、現地の地表の姿を確認し、それを180cm四方の枠内に原寸大で再現する、という凡人には思いつかないような着想&実行力がスゴイ。
(ふだんどんな暮らしをしているのか知らないけど、こういう人たちと酒飲むと面白いだろーナー)
4点飾られていたが、そのうちの1点は、広島市内の舗道と車路の縁石部分。
コンクリートと鉄でできたマンホールが、なんだか落っこちてきそうでこわい感じだが、「なんかワルイか」と言わんばかりの不撓不屈さが、アフリカの太鼓のように響いてくるのでありました。
「旅」といってもこの程度の「旅」なんですが、人寄せパンダのような目玉なしでこうした興味深い展覧会を企画された学芸員のかたに、ザブトン一枚だなー。
ところで、「旅」といえば本のほうでは沢木耕太郎「旅する力」が売れているみたいで。
でも、人生を振り返るのはまだ早いような気がしますよ、沢木さん。
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