デジタルは手書きの記録に勝てるだろうか
今和次郎(こん わじろう)。
あまり知られた名前ではないので、興味のないかたも多いとは思います。
当方はそのむかし、この人の「考現学」という変わったタイトルの文庫本を買った手前、覚えていただけなんですが。
「今和次郎 採集講義」展 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)。
展覧会としては、地味。
だけど、よかった。
デジタル社会のスピード感に辟易されているご同輩に、おすすめの一品。
といっても、この人が何者であるか説明しなくてはいけませんが、これはこれで難題。
ま、この展覧会をご覧いただくのがイチバンなのですが、「考古学」に相対する「考現学」というジャンルを勝手にうち立てて、自分が生きている社会の記録をとりまくった人物、とでもいいましょうか。
学者のようでもあり、芸術家のようでもあり。
絵というか、スケッチは、プロなみ。
また、ユーモアやおかしみを解する肩のチカラの抜けたキャラ。
明治21年弘前市生まれ。
働きざかりのときに関東大震災に遭っている。
関東大震災直後、にわかづくりの掘っ立て小屋や仮設住宅が東京のアチコチに建ちはじめたのですが、都市景観を損ねかねない状況に危機感を抱いたのか、今が中心となって「バラック装飾社」という会社を立ち上げている。
そのチラシのコピーがいさぎよい。
「バラックを美しくする仕事一切」。
先のことより、今のこと。
銀座の現伊東屋あたりに「カフェ・キリン」なるキリン系ビヤホールが急造され、その看板も任されている。
建物の左右に大きなキリンが向き合う構図。
なんか人生を楽しんでいる感じなんだなー。
田辺茂一のすすめもあって、新宿の紀伊國屋で「しらべもの展覧会」なるものも開催している。
全部で53点のしらべもの。
たとえば「井の頭公園花見人分布図」。
たとえば「深川猿江町大工サン一室物品調べ」。
「茶碗のワレ方」なんていうの調べている。
ポリシーとかコンセプトとか、生産性とか、ワシラ関係ありません。
この人の弟は、今純三という東北では知られた画家。
会場にも3点ほどモノクロ・エッチングが展示されておりましたが、「奥入瀬渓流」「青森県画譜」など、故郷青森の風景を描いたすばらしい銅版画をたくさん残している。
(石版・銅版100枚の昭和9年発行「青森県画譜」は今でも古書店で手に入るが、ちょっと手が届かない)
ところで、「今」という姓、なかなかお目にかからないですよね。
「街道を往く」のなかで司馬遼太郎が「金(こん)」という姓にふるくから関心を持っていたと語っているくだりがある。
「やがて金姓は、ほとんど今姓になった。いまも青森県では、今姓はめずらしくない」(オホーツク街道)。
今東光しかり。
ただし、ピンキーとキラーズの今陽子は芸名だそうな。
話がそれました。
記録することの意義、意味を再考させるような企画。
デジタルにはない、アナログの記録の、あたたかさ。
EvernoteやiPadばかり目を向けていないで、鉛筆を持ちましょうよ、と誰かが耳元でささやいたような気がいたしました。
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